事故・トラブル最前線

事故・トラブル最前線これからの時代の園経営や
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保護者感情を形成するもの

保護者感情を形成するもの

 安全対策は事故が起きる前の危機管理と事故が起きた後の危機対応に分けることができます。内閣府が公表しているガイドラインにおいても、危機管理と危機対応は明確に区別されています。つまり、事故前と事故後という2つの場面を想定して事前の準備をしておかなければなりません。

 しかし、事故前の対応と事故後の対応は独立した全く違うものなのでしょうか。特に保育事故に巻き込まれた保護者とのコミュニケーションにおいては、事故前の対応と事故後の対応が合わさって保護者の感情が形成されていきます。つい先日、私が聞いた医療現場での、患者(Aさん)が死亡する前と死亡した後での対応を紹介いたします。

 Aさんは月曜日に亡くなりました。Aさんの担当医は月曜日から金曜日までの出勤でしたが、Aさんの死期が迫っていることからいつ何があってもいいように土曜日も日曜日も出勤しAさんの様子を見て、Aさんの家族と話し合いの時間をとりました。そして、Aさんが亡くなったのは月曜日の午後11時ごろでしたが、Aさんの担当医は月曜日の通常の診療を終えた後も残業をしてAさんの脈が無くなった時にすぐに駆けつけました。そして、Aさんの呼吸が無いこと等を確認した後に、死亡時刻を特定するために自分の時計ではなくAさんに寄り添っているAさんの家族に「死亡時刻は...」と目線を向けました。そして、Aさんの家族が腕時計を見て時刻を伝えると、「○時○分お亡くなりになりました」と死亡確認をしました。その後Aさんが霊柩車で病院を出るときにも病院の外まで見送りをしました。

 Aさんの家族は、担当医のAさんが死亡する前の誠実な対応と、死亡後の家族に寄り添う何気ない気配りから、この病院でこの担当医にお世話になって本当に良かったと心から思ったとおっしゃっていました。

 保育現場においても同じことが言えます。事故が起きるまでの誠実な対応と事故が起きた後の自分達の都合を押し付けるのではなく保護者に寄り添う何気ない気配りという、事故前と事故後のコミュニケーションが保護者の感情を形成します。ただし、保育現場において死亡事故が起きた場合には該当しません。保育現場において死亡事故が起きた場合には保護者のやり場の無い怒りは園に向かいます。そのときに何気ない気配りで保護者の方の感情が治まるとはいえないからです。事故前と事故後のコミュニケーションによって保護者の方の感情を治めることができるのは死亡事故未満の事故に限られます。しかし、この考え方は、事故に限らず、保護者の方との些細なトラブルの際にも該当します。

 有事の際には、有事の後のコミュニケーションも大切ですが、有事の前のコミュニケーションも大切です。有事の前のコミュニケーションは有事の後にも影響することを再確認していただき、今回のブログをつうじて、日常の保護者とのコミュニケーションのあり方について考えていただく機会にしていただければ幸いです。

2018.05.02