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訴訟の季節 3

訴訟の季節 3

園児同士ぶつかり目を負傷 認定こども園を提訴

 通っていた佐賀市の認定こども園で2015年、走ってきた園児とぶつかる事故で目を負傷したとして、元園児(7)が22日までに、園を運営する学校法人に約1460万円の損害賠償を求める訴訟を佐賀地裁に起こした。5日付け。

 訴状によると、原告が4歳だった15年11月、園の靴箱前の廊下で、走ってきた園児と衝突し、右目周辺の骨を折るけがをした。原告側は「園内の事故であり、被告は親に代わって園児を監督し、園児が加えた損害につき賠償する責任がある」とし、慰謝料や後遺障害による逸失利益などを求めている。

 こども園側は「トラブルになり残念に思っている。係争中なので詳細なコメントは差し控えたい」としている。(2018年11月23日 佐賀新聞)

 今回のような事例はよく起こりがちな事例です。が、この手の事例にはいくつかの謎が潜んでいます。その謎を今週は読み解いていきましょう。

ミステリー1 法人が負けた場合が謎

 もし、この訴訟で法人側が負けた場合、原告側の言い分が正しかったということになり、損害賠償義務が生じます。ここに1つ目の謎があります。

 損害賠償義務が生じるということは、法的責任が法人側に認められたということになります。法的責任が法人にある場合、法人が加入している賠償責任保険の対象となります。つまり、この事故は、本来であれば、事故発生時に保険申請をしていれば、保険から損害分が支払われ、その時点で示談が成立し、訴訟には発展しなかったのです。

 でも、事例では、訴訟に発展しています。その理由として考えられることは2つ。①法人が賠償責任保険に加入していなかった。②法人が加入している保険代理店が、「園児同士のトラブルですので、法人に責任はありません。よって、保険の支払い対象にはなりませんよ」とアドバイスし、保険申請をさせなかった。

 いずれにしましても、もめなくて良いケースで、訴訟にまで発展しているということです。

ミステリー2 保護者が訴訟にしたことが謎

 保護者(原告)側は、園児が目に負った後遺障害に対する損害賠償を主張しています。この度合いがポイントになるのですが、①後遺障害が軽い場合は、訴訟しても訴訟コストの方が多くかかる可能性があります。つまり、保護者は損してまでも法人を訴えたかったことになります。

 訴訟に対し、法人は「トラブルになって残念」とコメントしていますが、訴訟コストの方が多くかかるような訴訟に保護者を踏み切らせたのは、法人の心無い対応だと推測されます。「トラブルになった」のではなく、法人自らの対応の悪さで、「トラブルにした」のです。

 逆に②後遺障害は重い場合、片目失明の可能性がある場合などは、さらに謎が深まります。生涯において園児の片目が失明するかもしれないのに、法人は誠意を持った対応をしなかったということになります。

 ①、②のいずれにしても、法人側の対応方法に問題があったと言わざるを得ないでしょう。

 今週の事例から学ぶポイントは2つ。

 1.事故対応は誠意を持って行いましょう。

 2.保険代理店は保育現場の事故対応に詳しい代理店を選びましょう。

みなさんも、今年中に自分たちの法人の事故対応と保険代理店をチェックして、必要であれば、見直してみてはいかがでしょうか。訴訟になってからでは、失うものが多すぎるので、後悔先に立たずになりますよ。

2018.12.07