事故・トラブル最前線

事故・トラブル最前線これからの時代の園経営や
危機管理の在り方を専門家が語る

事故

遺族の怒り。

遺族の怒り。

 大分県立高校で2009年、剣道部の練習中に当時17歳の少年が熱中症で倒れ死亡した事故で、当時の顧問教員らに賠償責任を負わせるよう両親が県に求めた訴訟の控訴審判決が10月2日、福岡高裁であった。佐藤明裁判長は元顧問の重過失を認め、100万円の賠償を求めるよう県に命じた一審・大分地裁判決を支持し、県側の控訴を棄却した。

 このニュースは、園関係者にとって他人事ではありません。高校の先生と保育園・幼稚園の先生の法的な責任は基本的には同じだからです。そのため、以下では、保育園・幼稚園の先生の法的な責任としてこのニュースを解説いたします。

 このニュースのポイントは県立高校の先生の賠償責任というところがポイントです。県立ということは公立ということです。公立の反対は私立です。公立で働いている先生は公務員の先生です。何が言いたいかというと、公務員の先生とそうでない先生とで法的な責任が異なるのです。

 公務員でない先生が、不注意で園児や学生を死亡させてしまった場合、先生は遺族に直接賠償責任を負います。つまり、遺族からお金を支払えといわれたら拒否できません。それに対して公務員の先生が、不注意で園児や学生を死亡させてしまった場合、先生は遺族に直接賠償責任を負いません。国や県などの地方公共団体が代わりに支払ってくれるのです。

 この違いは、国家賠償法という法律があるためです。公務員の先生は国家賠償法に守られているのです。しかし、公務員の先生に重過失(著しい不注意)がある場合には、国や県などが代わりに支払ったお金を、公務員の先生に返してと請求することができます。

 この国や県などの返してと請求する権利を、国や県等に変わって使ったのが、上記ニュースの遺族なのです。権利関係が複雑になっていますが。このようなことを地方自治法第242条の2が認めているのです。

 今回のブログでは、このややこしい法律の話をすることが目的ではありません。上記ニュースの遺族はこの訴訟で一銭もお金を手にすることができないのです。それは、大分県がもっている権利を代わりに使ったためです。つまり、100万円は大分県のものなのです。それにもかかわらず、弁護士費用や裁判費用、そして時間を費やしてまで現場の先生の財布からお金を巻き上げたかったのです。これが、遺族の怒りなのです。子どもを亡くした遺族の行き場のない怒りは、やはり現場の先生に向いてしまうのです。

 現場の先生には、安心して保育や教育に専念してもらうためにも、園での危機管理は園の管理者の責務だといえます。安全は日々の積み重ねです。後悔する前に行動する。当たり前のことですが、危機管理の世界でも通用するものです。

2017.10.11