事故・トラブル最前線

事故・トラブル最前線これからの時代の園経営や
危機管理の在り方を専門家が語る

事故

【3.11】野蒜小体育館訴訟から学ぶ保育施設の危機管理

【3.11】野蒜小体育館訴訟から学ぶ保育施設の危機管理

 平成23年に発生した東日本大震災で宮城県東松島市野蒜小体育館に避難した後、津波にのまれて死亡した女性(当時86)と同小3年の女児(9)の遺族が市に計約4000万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が4月27日に言い渡されました。仙台高等裁判所は約2600万円の賠償を命じた一審・仙台地裁判決を支持しました。

 この裁判所の判断は、当時86歳の女性には1円も賠償を認めていません。一方、当時9歳の女児には約2600万円の賠償を認めました。ニュースでは、市の敗訴だと伝えられていますが、市は当時86歳の女性には勝訴しているのです。同じ体育館に避難していて、同じ校長先生が避難誘導にあたっていたにもかかわらず、なぜこのような違いが生まれたのでしょうか。

 当時86歳の女性は小学校の体育館で津波にのまれて死亡しています。一方、当時9歳の女児は自宅で津波にのまれて死亡しています。死亡した女児がなぜ自宅に居たのかというと、校長先生が児童を保護者に引き渡すように指示し、女児の同級生の父親が女児の引取りを申し出て自宅に帰宅させたからです。

 決定的な違いは死亡した場所です。この死亡した場所が津波の浸水予想区域に含まれていたのが当時9歳の女児の自宅で、含まれていなかったのが小学校の体育館だったのです。当時9歳の女児の自宅が浸水予想区域なのだから、津波の到来は予想できたはずだ、それにも関わらず保護者でもない人に当時9歳の女児を引き渡すという避難誘導をしたことは法的に許されないと裁判所は判断したのです。一方、浸水予想区域に含まれておらず、津波の到来が予想できなかった小学校の体育館から、より安全な高台などに避難させなかったことは、法的に責めることができませんと裁判所は判断したのです。

 浸水予想区域というのは東日本大震災前から公表されています。なので、校長先生が浸水予想区域なんて知らなかった、といっても責任逃れをすることはできません。震災時に避難誘導する立場の者が浸水予想区域を知らないこと自体が問題なのですから。

 私たちは、この浸水予想地区と同様のものが保育・幼稚園の世界に存在していると考えています。それは、事故事例です。園児たちの大切な生命を預かっている保育園・幼稚園の施設管理者や職員の方は事故事例をしっかりと覚えておいてください。新聞で報道されている事故に限らず、内閣府から公表されている事故情報データベースまでしっかりと把握しておいてください。内閣府から公表されている事故なら、こんな事故が起こるなんて知らなかったなんて言い訳は通じません。

 私たちも、保育事故を少しでも減らせるよう、事故事例をみなさんが分かりやすく理解できる研修を用意しています。保育園・幼稚園業界に携わる者すべてが協力して1つでも保育事故を減らせるよう協力していきましょう。

2017.05.03