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事故

「保険」という商品の怖さ

「保険」という商品の怖さ

平成20年に首都高でローリー横転事故を起こした運輸会社が破産

 多胡運輸株式会社は8月4日、前橋地裁高崎支部より破産開始決定を受けた。負債総額は約33億円。昭和50年、運送業務を目的に創業。一般貨物輸送のほか石油燃料の輸送などを手掛けて業容を拡大し、タンクローリー6台を含む46台のトラックを所有し約2億円の年間売上高をあげていた。

 平成20年8月、東京都板橋区の首都高速5号線熊野町ジャンクションで、当社のタンクローリーが横転し炎上する大事故が発生。この影響で高速道路高架部分の架け替え工事、近隣マンションの外壁被害などで多額の損害賠償補償の問題を抱えていた。事故に伴い、本社営業所の車両使用停止、運行管理者資格者証の返納命令などの行政処分を受けながら、以後も事業を継続していた。しかし事故の影響で業績不振を招き、平成23年12月には本社不動産を売却するなど経営悪化が露呈し、平成24年度に事業を停止していた。

 この間、首都高速道路が復旧費用など損害賠償を求め、トラック業界では過去に例のない高額補償事案として係争していたが平成28年7月、東京地裁で敗訴。判決により当社および運転手に対し約32億8900万円の支払命令が下されていたが、高額な損害賠償の支払ができず事後処理を弁護士へ一任し、今回の措置となった。(2016年8月17日 東京商工リサーチ)

 今回の事例は、高額賠償が支払えずに本業がなくなった事例です。民事責任である損害賠償責任は経済的リスクですが、このリスクを軽減するために保険(賠償責任保険)があります。

 保険という商品は、一般的な商品と比べ、大きく異なる点があります。市場で売られている一般的な商品は、代金を支払うと同時に商品が手に入ります。手に入れる前に下見や試食などを行えば、代金を支払った後に、「こんな商品を買ったとは思わなかった」ということは、買い方が間違えない限り、起こりえません。

 では、保険ではどのようになるのでしょうか。まず、保険について説明を受けます。それに納得し、契約を交わします。このときに契約書を保険会社と取り交わし、約款(保険の契約条項を書いたもの)をもらいます。しかしながら、商品(成果物)はこの時点でもらいません。

 保険という商品が納品されるのは、事故が起こり、保険の必要性が生じたときです。つまり、事故が起こらなければ、自分が契約した保険の内容はわからないというわけです。もちろん、保険契約時に保険会社の代理店がもれなく説明し、施設側はそれをすべて正確に理解し、さらに約款を隅々まで読み、不明点は質問し、明らかにしておけば、「こんな保険に入っているとは思わなかった」ということはないでしょう。

 でも実際には、そこまでのことを契約時にしている施設はなかなかないでしょう。もしかしたら、事例の運輸会社は、保険に入っていなかったかもしれませんし、事故が起きてから、「この部分は補償内容には入っていないので、保険金をお支払することはできません」と保険会社に言われたのかもしれません。

 事故が起きたときに、事前の準備で何とかできるものは経済的リスクへの対処しかないと言っても過言ではないと思います。保険とは本業の存続をかけたものです。年に一度は真剣に見直すことをお勧めいたします。

2016.09.30